私の作品は、時と共に過ぎ去る曖昧で不確かな景色の記憶、
その残像を絵画的に定着させようとするものです。
その場の印象、空気感、時間の経過、モチーフ自体が持つ形の独自性を意識しながら制作しています。
対象物をそのまま描くのではなく、その場の空気感を自身の記憶に基づいて独自の解釈で表現することにより、
より記憶に忠実な作品になると考えます。
記憶という対象の性質上、ある一定期間の時間を表現するために、
いくつかの角度から見た図をひとつに併せた多視点構造を取り入れています。
さらに絵画は単にイリュージョンであるばかりでなく、多重的に画像をダブらせたり、抜けを生じさせたり
、また樹木等の模様自体が自律的に主張しはじめます。
平面絵画としての質を常に意識し、画面の中で様々な要素を織り交ぜ、変化させながら、
多面的かつ情緒的な表現を目指します。
表現技法に関しては、自発的な「色面を塗る、筆跡を生かす、線描」と偶然性を利用した
「絵具を染み込ませる、垂らす」等の両方を使いアプローチすることで、
互いを生かすようバランスをとっています。
今特に興味があるのは、絵の中で視点がどう動いていくのか、形のないもの(風・水・光など)を
どう表現するのか、余白の意義、時間経過の過程をどう描くのかという点です。
2015/12/7/ 田中里奈